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読書の感想とか

内向と外交の邂逅が拮抗(『青空の卵』、『子羊の巣』、『動物園の鳥』、坂木 司)

 この三冊はいわゆる日常の謎というジャンルに分類されるミステリー小説だ。人が死んだりはせず、誰かが深刻に傷つけられるということもほとんどない。日常で接する人がいつもとは違う行動をとるようになった。その理由はなんだろうということを解き明かしていくお話である。

 

 この小説は坂木という登場人物の一人称視点から語られる。坂木は外資系の保険会社に勤める営業をしている男で、頭にドがつくお人好し。そういう人物である。彼も主人公ではあるが、もうひとり主人公がいる。それがミステリー小説においては欠かせない探偵役の鳥井という男である。

 

 鳥井は過去に受けたトラウマから外出をすることがほとんどできない人物として描かれている。外出ができないので在宅プログラマーとして生計を立てており、社会と完全に切れているわけではない。しかし長年のひきこもりと過去のトラウマから対人スキルは著しく低く、目上や初対面の人であろうとお構いなしに乱暴な言葉遣いで話す。端的に言うと社会不適合者である。ちなみにこの三作は「ひきこもり探偵シリーズ」と呼ばれており、つまりそういうことである。

 

 以上の二人が主人公である。鳥井はホームズで坂木はワトソンと思えばまちがいない。この二人には深い縁があり、そのつきあいが始まったのもある出来事がきっかけで……といったふうに彼らのエピソードは作品においてかなり細かく描かれている。

 

 探偵役の鳥井は尋常ではない頭の切れを見せるが社会に適合することのできない人物である。

 

 その助手役の坂木はなにか閃きを見せたりはしないが一つの会社に属して社会人として過ごすことができている人物である。

 

 この対比は作者にとってかなり意識的なものだったのだろう。坂木はそれなりに社会に適応し日々を過ごしているが、その坂木ではどうすることもできない出来事に彼はぐうぜん遭遇する。そして坂木は自分ではどうしようもないので鳥井に相談する。鳥井はその出来事のある部分にピントを当て、行間を推測し、そしてひとつの答えを導く。しかしそれが正解であるかを確認するためには外に出てさまざまな証拠を探すことが必要となるが、鳥井一人では外出もおぼつかない。そこでまた坂木が出てきて、他人との応対をする。

 

 どちらかひとりだけでは物語が成立しないようになっている。物語の構造的にふたりは相互に依存してるし、物語の内容においてもふたりは依存しあっている。ふたりがどのようにして相互依存の関係になったのかはここでは書かないが。

 

 そうした相互依存の状態から抜け出していく過程もこの小説の楽しみのひとつだ。

 

 坂木はドがつくほどのお人好し、鳥井は社会不適合者と端的に書いたが、それは言い換えるとふたりとも子どもであるということにほかならない。そのふたりの子どもがどのように大人になるのか、自立と孤立の違いはどこにあるのかということも考えさせられる小説である。

 

 読みやすい文章だし、内容は王道の成長物語という一面もあるのでなかなかよい小説だった。

 

 しかしいまの俺にはあまりおもしろくないところも多かった。

 

 それは主人公ふたりの人物造形がむかつくというところだ。しかしこれはただ単に俺の個人的な感情に過ぎないが、坂木は世界を美しいものとして見たがりすぎで鳥井は世界を汚いところとして見たがりすぎだろうと俺は思ってしまった。

 

 でもそういう未熟さというか鼻につくところがあるふたりが成長していく過程が書かれている物語だから一概に文句は言えないんだけども。でもとにかくふたりにはむかつく。

 

 でもこういうふうにしてむかつくってことは、俺のなにかしら基準にしてる価値観を揺るがせるようなことが書かれていることでもあるからやっぱり物語は難しい。この三作の小説はけっこうおもしろい。