よんでいる日

読書の感想とか

生と死のグラデーション(『医師は最善を尽くしているか』アトゥール・ガワンデ)

 たとえば医療は手洗いだったりする。病院内で起きる感染は、手洗いが徹底されていないから起きる場合もあるというエピソードが最初に語られる。そして手洗いを徹底することがいかに難しいかということも。

 

 この本の作者は医師である。だから医師から見た医療についてももちろん触れられる。患者との関係、医師の給料がどのようにして支払われるのかまた相場はどのていどなのか、病院によって患者の快復率が異なるのはなぜか。

 

 もちろん医療は病を得たひとにとって最も関係の深いものであるから、患者の視点からも書かれる。間違った治療を受けて後遺症が残ったひとや死んでしまったひと、遺族が医者に対して抱く思いや感情、いい病院っていうのはなにがどういうふうになれば決まるのか。

 

 というふうに医療ってなんなん? ということが様々な角度から語られたおもしろい本である。以下は感想。

 

 なにをどう言葉にすればいいのかわからない感じが残る幸福な読書だった。私はおおむね健康でいままで医療というものについて考えたことがなかった。私にとっての医療とは、体調が悪いときになんとなく保険料を払うことによってなんとなく持っている保険証を携えてなんとなく近くの病院に行くことだったので、医療とはいろいろな事柄から成り立っているものだということが書かれたこの本を読むことができて本当によかった。

 

 本はだいたいおもしろいものだが、読み終えて高揚感を得るほどおもしろい本に出会ったのは久しぶりだった。

 

 まず作者がきちんと言い切っているその姿勢がかっこいい。医療に携わる医師としての限界に触れつつ、しかしできることを全力で自分はするということが書かれている。かっこいい。

 

 なにかを言い切ることは責任を負うことにも繋がる。だから明言は避けて、曖昧な物言いをすることを私はしがちだ。

 

 なんというか、ひとくくりに医師ってすごいなあとは言えないけど、医師にもすごいひとはたくさんいるんだなあとこの本を読んで思った。

 

 ただすげえなあと思えるひとを増やすことはけっこう気持ちいいもんだということに改めて気づいた。

 

 とにかくおもしろい本だった。