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よんでいる日

読書の感想とか

もろもろの日常(橋口亮輔『恋人たち』

 むかし話題になったことのある映画だ、とツタヤで棚を眺めているときになんとなく『ぐるりのこと』という映画のDVDが目にとまった。借りてみた。びっくりするくらいおもしろかった。見終わってすぐに監督の名前を検索するとちょうど新作映画が公開されているという記事があった。その翌日に映画館に走った。

 

 妻を通り魔に殺されたショックから立ち直れずにいる橋梁点検士の男、夫とも姑ともうまくいっていないと感じているパートの女、自分が社会的に優れ ているがゆえに他人への想像力が薄い同性愛者の弁護士の男、以上それぞれ三人の主人公が登場する。そしてそれぞれ問題を抱えており、その問題に苦しむ過程が三人それぞれに描かれている。

 

 というわけで『恋人たち』を見た。個人的にはもちろんおもしろかったけどもそれ以上に優れた映画なんだろうと感じた。「優れた」というのはどういうことかというと、言葉にするのは難しい。適度に使われる隠喩だとか、登場人物が苦しんでいる場面なのに笑えてしまう(それゆえ余計にかなしい)脚本の絶妙さとか、登場人物の心理にあわせて効果的に使われる音楽とか、いろいろなことがいえる。映画は本当にさまざまな要素からできているからだ。

 

 個人的に印象に残ったのは同性愛者の弁護士が密かに思いを寄せていた友人との関係が失われる場面だ。あそこはざまあみろとも思える場面だと思う。この弁護士は他人の気持ちをあまり考えない嫌なやつとして描かれていたから。でも、俺はなによりも普遍的な感情を扱った場面だと感じた。

 

 たぶん恋人と別れたことのあるひとの多くは、別れるときに似たようなことを感じたんじゃないかと思わせるようなシーンだったからだ。というか恋人と別れたての俺にとっては、自分の頭の中がのぞかれているんじゃないかというような馬鹿なことを思わされるくらいひびくシーンだった。同じことを感じている人がたとえフィクションの中であろうと存在することに、これだけ慰められるとは思ってもみなかった。

 

 というわけで『恋人たち』は個人的にものすごく印象に残った映画だった。おもしろかった。